日経新聞掲載文

雑穀、産地作り活発に
キヌアやソルガムで地域振興

ご飯やサラダなどに混ぜて食べる雑穀の産地づくりが活発になっている。静岡県裾野市は「キヌア」、長野市では「ソルガム」を新規作物として農家を育成している。雑穀の一大産地である岩手県も、効率的な生産方法の導入が進む。国内で健康志向が高まる中、栄養価が高いとされる雑穀を育てて農業や地域の振興を狙う。

富士山を望む裾野市は、2019年度からキヌアの試験栽培を始めた。キヌアは南米のペルーやエクアドルなどが主要生産国で、国内では静岡県の隣の山梨県などでも生産されている。宇宙食として注目されるほど栄養価が高く、鉄分やカルシウムなどのミネラルが豊富。ご飯に混ぜて炊いたり、ゆでてプチプチの食感になったものをサラダに混ぜたりする。

キヌアが主に生産されているのは、南米の標高の高い地域だ。富士山の麓の裾野市も標高が高い農場があり、育てやすい条件が整っているとみて、静岡大学などと栽培を進めてきた。

2年目の20年度は約35アールの圃場でキヌアを育て、約100キロを収穫した。市内の産業連携施設「いわなみキッチン」で、100グラム600円で販売している。業務用には青果流通サービス「やさいバス」を通じても販売する。

市が期待するのは、地域振興事業との連携だ。同市では現在、標高差のある自然環境や首都圏からの近さを生かしてトレーニングコースの整備や合宿誘致などのスポーツツーリズムを推進している。栄養価の高いキヌアを使ったハンバーグなどアスリート向けの食事をこのほど考案し、合宿客などにPRしていく。市内ではキヌアを使った味噌づくりの取り組みも始まっているという。

裾野市がキヌアの栽培を学ぶ農家を3月1日まで募集したところ「想定以上に集まった」（農林振興課）。今後さらに生産量が増えそうだ。

長野市は信州大学などと連携し、グルテンフリーの小麦代替食品として注目されるソルガムの栽培を13年から進めてきた。ポリフェノールをワインなどよりも多く含むとされるほか、血圧抑制効果のあるGABAなども豊富。粉状にしたものはパンや麺、お菓子に加工できるうえ、小麦アレルギーの原因物質を含まない。

「信州産ソルガム」の振興を進めてきた地域おこし協力隊の井上格さんは19年、販売や加工を手掛ける会社、AKEBONO（長野市）を立ち上げた。ご飯などに混ぜる「雑穀ミックス」や、パンなどの原料にするソルガムの粉を販売する。「子どもが小麦アレルギーで、『何なら食べられるのか』を探していた時にソルガムを知った」といい、ソルガムの栽培を進めていた長野市の協力隊に着任した。炒め物や味噌など、ソルガムを使ったレシピも提案する。

アレルギーの心配が少ないことから、子ども向け食品を製造する企業からも注目されている。給食受託サービスのミールケア（長野市）は、信州産ソルガムを使ったケーキミックスなどを販売している。

長野市や信州大学は山間部の七二会地区で実験栽培を続けてきた。19年度は約640アールで栽培した。市内の一部の学校ではソルガムを使った給食も提供された。信大との共同研究は20年度でいったん終了するが、市は今後も産学官連携でソルガムの振興を続ける方針だ。

全国の雑穀の6割を生産するとされる岩手県。ハトムギなど15品目前後を生産するJAいわて花巻（岩手県花巻市）では、稲作のように育苗してから畑に植える「移植栽培」を進めている。これまでは直まきが主体だったが、移植にすることで反収が2〜3割上がるという。販売を手掛ける子会社のJAグリーンサービス花巻プロ農夢花巻事業本部（同市）は「健康に気を使う人が増えているので引き合いが多いが、原料が潤沢でなかった」といい、生産性の向上で市場開拓を図る。健康志向の高まりは、国内の農村に新たな風を吹かせる。